恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
表面張力で保っていた水面が、一気に溢れ出したみたいだ。


急に一人放り出された気分になって、心細さからか無意識にシーツを握った。


恵美が離れていって、笹倉とも離れて。
誰かに恨まれて、嫌がらせされて。


―――… 大丈夫だ。


いろんなことが一度に動いたから、少し心許ないだけ。
すぐになんともなくなる。


……ふと。
思い至った。


あれ。
私、何か忘れてないっけか。


目の焦点を空中でさまよわせながら、ここしばらくの思考を順に巡っていき。



「……あ。」



忘れ物を見つけた私は、勢いよく起き上がる。
腰の重い痛みに少しだけ、あのサルめ、とか悪態ついて、携帯を探すべくリビングへと向かった。


肝心な、昨日の嫌がらせの事で、聞きたいことがあったのを忘れていた。


何もされてないならいいが、相手が特定できないのだから自宅を知られてる笹倉も気をつけるに越したことはない。


今しがた、私なりの決意をもってさよならした相手に直様電話するということに、滑稽さを感じながら携帯を手に取った。


カーテンが、ぼんやりと白みがかる空を向こう側に透かして見せていて、今がもう朝方なのだと知らせていた。
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