恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「確実に行動取ってくれなきゃ捕まえてもシラきられるし。いちゃついてたら頭に血が上って写真撮ってくれるかなと思ってさ。悪かったな狭山」

「途中から、察しはついてたけどね」



藤井さんが取り上げた携帯を弄り始める。



「あっ!」



それを慌てて、取り返そうと顔を上げた彼女。
ああ、やっぱり、見間違いじゃなかったのか。


逃げようとする様子はなかった。
ただ、気まずそうにまた、目を伏せてしまう。



「ちゃんと写ってる。二人がアパートの真ん前にいるとこ」



藤井さんが携帯の画面をこちらに向けた。
遠目に私と笹倉が写っているのが見えた。


私は、ふぅ、と溜息をひとつ。
嫌な想いはしたけど、それほど怒りはなかった。



「ねぇ、なんでか聞いていい?三輪さん」



三輪さんは、しゃがみこんだまま数秒、身じろぎせずにいたけれど、観念したのかゆっくりと立ち上がる。



「……逃げないから、手、離してください。豊田さん」



三輪さんは、腕を掴んでいたショートカットの女の子にそう言うと、軽く腕を振り払う。


同時に、背を向けていた豊田と呼ばれた女の子が向きを変えて横顔が見えた。



「は?……あれ?うそ…」



三輪さんを捕まえたのは薄茶色だった髪を黒に戻して、襟足が顕になるくらいに短く髪を切った、恵美だった。

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