恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
恵美と笹倉の会話を聞いていて、力が抜けたのかまだ濡れてはいたが涙は止まった様子だった。


深呼吸して、ショックだったんです、と言った。



「彼女はいないって言ってたのに瑛人先輩、顔に引っかき傷つけて仕事に来たことがあって…女にやられたって小西君と話してるのを聞いて。

 その時に気になって仕方なくて…後つけたら入っていったアパートに狭山さんの名前が合って。付き合ってるんだって、思ったら…悔しくて」



俯いてまた小さく、すみません、と間に挟む。
あまり話したくない部分なのか、少し語尾が弱々しくなった。


っていうか、引っかき傷……?
すぐに思い当たって笹倉と顔を見合わせる。



「…ひっかき傷って、あれは」



私じゃなくて、合コンの巨乳ちゃんだよ!


笹倉が片手で目を覆って嘆息した。


あの日、今日はもう無理ってメールしたのに、仕事の後やっぱり電話かかってきて、押しかけて来たんだった。



「…それから、何度か二人で帰るとこ見かけて、後つけました。私も同じ駅だから、偶然もあったんです。そんなことしたって、どうしようもないってわかってるのに、悔しくて…ホンの少しでも、狭山さんが怖がれば良いって」
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