恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
急ぎなのはわかっているのに、これでは無意味に時間が過ぎる。
宥める為の言葉を探していたら



「ご迷惑をおかけしております、お客様。」



私の背中から、笹倉の声がした。



「申し訳ごさいませんが、直ちに商品を揃えさせていただきますので。狭山さん、商品手配の連絡をお願いします。」



そこまで一息に話して女性の勢いを遮断した。



「すぐに確認致します。」



私はレジカウンターに戻り、店舗用の携帯で一番近い店舗の番号を探して発信する。
その間に、笹倉はカナちゃんに急ぎで熨斗紙を用意する為、事務所に向かう指示を出し、もう一度声をかけておく。



「長くお時間を頂戴しております。お帰りのお時間は……」



女性のお相手までそのまま引き受けてくれた。


助かった……。
電話を握り締めながら、今になって汗が噴き出してくるのがわかった。


怒鳴られる、というのは思いの外冷静な判断と行動力を奪われる。
いい加減場慣れもしているだろうに、自分の不甲斐なさに唇をかみ締めた。




電話を終えて顔をあげると、気付いた笹倉がお客様に一礼してから近づいて来る。



「商品揃います。先方にちょうど本社の営業が来ていまして、こちらまで届けて貰えることになりました」


笹倉は頷いて、手にしていたメモを一枚破いて差し出した。



「お客様、もう帰りの電車までお時間が無いそうだからご自宅までお届けする形で了解をもらった。これ、住所と電話番号。早番が終わってからのお届けでいいって言ってくれたから、仕事上がりで一緒に行くよ」



どこまでも話をつけてくれていた。
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