恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「いえ、もう大丈夫です。私が早番なので、一人でお届けに上がります」


ここまで話をつけてもらいながら、他店の彼にこれ以上甘える訳にはいかない。


「ん……対応した二人揃って行く方が、多分心象も良いと思うから。」


確かにその通りではあるのだけど…


「すみません。ありがとうございます」


結局、頼ることになってしまった。
二人でお客様にもう一度お詫びし、お見送りをする。



「それでは、夜7時頃にはお届けにあがれるかと存じます。本日は大変ご迷惑をおかけしました」



すっと延びてぶれない背筋が、腰で正しい角度で作られる完璧な一礼。
プラス高感度抜群の煌めく営業スマイル。


それだけでもない、と思いたいが。
女性は先ほどまでとは打って変わって穏やかな表情で帰って行く。


見えなくなるまで見送って、漸く力が抜けたのか思わず派手な溜息をついてしまう。
だめだ、ここはまだ売り場内だ。


そんな私の溜息を聞いてか、ぷっ、と吹き出すような声がした。



「お疲れさん。早番、18時上がりだろ、従業員出入り口で待ち合わせな」

「ほんと、ごめん。助かりました…」



これ以上ないくらい深くお辞儀をしたら、別にいいよ、と呟いて自分の店へと戻って行った。
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