恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
帰って行く背中を見て、やはり少し悔しさが胸に残る。


笹倉の対応が早かったのもあるけれど、こういう時に男性スタッフが出てくるとすんなりと話が進むことが多い。


女性スタッフは、どうしても舐められがちなのだ。


見送っていると、彼の店の女性販売員の視線に色味がかっているのに気が付いた。
表すなら勿論桃色で、そりゃモテるよなぁとしみじみと納得する。


カナちゃんが事務所から作り直した熨斗紙を持って戻ってきて、言った。


「熨斗紙別に、事務所に出向かなくても内線でお願いできますよね」


そうなのだ。急ぎの時は、内線で頼めば事務所のデスクワークの人が代わりに作って持ってきてくれる。
多分、カナちゃんをその場から逃がしてくれたのだ。


「今にも泣きそうだったからですよね。ダメですね、私…すみません。はぁ…そりゃモテますよ、あの人。助けに入ってくれた時、何処の王子様かと思いましたよ」


躍けて言っているけれどまだ少し目が赤くて、私は少し苦笑しながら、彼女の背を撫でた。


不意に隣を見ると、恵美までもが彼を目で追っていた。ずっと事の成り行きを心配してくれていたんだろう。



此方に気づいて視線が合うと、彼女はぐっと親指を起てて見せて。
まさかのペコちゃん顔を披露してくれた。


ちくしょう。
あいつめ、何故何をやっても可愛いんだろう。


でも売り場でそれはマズイ。


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