恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~



事務所に新しいネームを取りに行っていた時だった。


途中狭山と会って一緒にフロアに戻ると、耳にキツイ女性の怒鳴り声と、ざわめく店内に嫌な予感がした。


俺達の店がある方角だったから。
案の定、狭山の店で年配の女性と必死に頭を下げる狭山の後輩の販売員の姿。



「行けそう?」
と狭山に声をかける。


女性の様子を見る限り、少しばかり、厄介なように思えた。
なんとかする、と気負う狭山の顔が少し引きつっている。


気休めだけど、その背中をぽんと叩いて励ました。




「あれ、どうなってるの?」



自分の店に戻って、他の販売員に聞いてみれば



「なんか、注文していた商品と違っていたらしくて。今は在庫がないからすぐに取り寄せをって店員が説明するんだけど、全く耳に入って無い感じで。結構長いこと怒鳴られてますよ、あの子」



…やっぱめんどくさそう。


こういう時、酷く高圧的に出てくる客は結構いる。
年配の方によくあるが、そういう手合いは相手が女性や下っ端だと更に拍車がかかる。


他の店舗には、エリア統括など百貨店側の上司もいるのに、遠目に眺めているだけだった。


面倒なのはわかるけど、お前ら酷いな。


レジ奥で少しお客に見えないところで、届いたばかりのネームに付け替える。



「このままだとフロア内の雰囲気悪くなるし。俺、ちょっと行ってくるから店頼むね」



多分、このままだと客の怒りが収まらないまま、クレームとして報告される。
そうなったら、それはそれでまた面倒な話になってしまうのだ。
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