恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
玄関を開ければ、仕事帰りであろう、笹倉が立っていた。


「どうしたの?急に」

「昨日から具合悪くて休んでるって聞いたから、気になって…」


笹倉は少し驚いた表情で、しげしげと私の顔色を伺っている。
コンビニの袋を差し出されて、受け取ってみればそれはずしりと重くて。


「熱でもでてんのかと思ってゼリーとかスポーツ飲料持ってきたんだけど、元気そうだな」

「あ…そっか。ちょっと出先で貧血で。大事とって店長がお休みくれただけなの。もう元気」


「なんだ。なら、良かったけど。…それはやる」

「あぁ、うん。ありがとう…」


どこか所在無げな笹倉と、私の会話は気まずくて。
思えば当然のことかもしれない。家で顔を合わせるのは、あの日以来なのだから。


笹倉が、すん、と鼻を鳴らした。


「なんか、すげー匂い。何?」

「すげーとは何よ。肉じゃが。今日の晩御飯」

「…え。お前料理するんだ」


失敬な。
心底意外といった表情に、私は頬をむくれさせる。


「ちょっとくらいできるよ私だって。食べてく?」


何げなく、聞いてしまった。
瞬間、また立ち込める気まずさ。


「あー…いや、やめとく」

「…そっか。うん」



< 248 / 398 >

この作品をシェア

pagetop