恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
そりゃ、そうだよね。
今更。


「あ。じゃあ、ちょっと待ってて」


玄関の扉が閉まっていくのを、支えてと目で訴えた。
彼の半身だけがするりと入って、扉に挟まる。


私は台所へ急ぐと、食器棚から大き目のタッパーを探し出し肉じゃがの鍋の前に置く。

お玉でじゃがいもを崩さないように、やさしくすくってタッパーに移し最後に少し煮汁を注いで、蓋をした。


スーパーの袋にタッパーを入れて、玄関に戻るとそれを笹倉に差し出し彼の手にやや強引に受け取らせた。


「物々交換」


そういって笑うと、彼の表情も少し和らいだことに安堵する。


「ありがとう。じゃあ、帰るわ」

「うん。あ、こっちこそ、ありがと」

「うん」


じゃあね、と笑って。

小さく手を振って、ぱたんと扉が閉まるまで。

しん、と急に、静けさが際立った。


「…ご飯たべよ」


台所に戻り、笹倉に渡された袋の中身を冷蔵庫に移すと、食事の用意を整える。


無音が気になって、テレビをつけた。
もそもそと肉じゃがを口に運ぶ。


上手く出来たと思っていた肉じゃがが、急に味気なくなってしまったのは、何故なんだろう。


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