恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
◇
「どういうこと?」
いつもの、店長ののんびりとした口調が直様消えた。
平日、今日のメンバーは店長、私とパートの販売員さんが一名。
少し暇な時を狙って、店長に時間を作ってもらい事務所の奥のスペースを借りていた。
「てっきり異動の話かと思ってたのに、それがなぜ退職になるの」
「すみません」
くっきりと皺を寄せる眉に、私は深くお辞儀した。
下げた頭の上で、深い溜息の音がする。
「謝罪じゃなくて。理由を聞いてるのよ」
簡易デスクとパイプ椅子、事務所とはパーテーションで仕切られただけのスペースだ。余り聞かれたくないので人の出入りが気になる。
「…その。新店って、4月からじゃないですか」
「そうね。それが何か?」
「もし、異動してもですね。ギリギリまで頑張っても、6月…いや、5月には産休もらわないといけないんです」
デスクの上でイライラを主張していた店長の指先が、ぴたりと止まった。
「は?」
「いきなり店長が長期不在になるなんて、ありえないじゃないですか。だから異動は無理で。かといって、此処にいるわけにも…」
「ちょっと待って」
店長の視線が、ずぃっと下に降りて私のお腹に集中した。
「まさか」
「今、8週くらい、です」
こういう申告が、まさかこれほど照れるとは思わなかった。
私は、綻ぶ口元を誤魔化す為に唇を噛んだ。
「どういうこと?」
いつもの、店長ののんびりとした口調が直様消えた。
平日、今日のメンバーは店長、私とパートの販売員さんが一名。
少し暇な時を狙って、店長に時間を作ってもらい事務所の奥のスペースを借りていた。
「てっきり異動の話かと思ってたのに、それがなぜ退職になるの」
「すみません」
くっきりと皺を寄せる眉に、私は深くお辞儀した。
下げた頭の上で、深い溜息の音がする。
「謝罪じゃなくて。理由を聞いてるのよ」
簡易デスクとパイプ椅子、事務所とはパーテーションで仕切られただけのスペースだ。余り聞かれたくないので人の出入りが気になる。
「…その。新店って、4月からじゃないですか」
「そうね。それが何か?」
「もし、異動してもですね。ギリギリまで頑張っても、6月…いや、5月には産休もらわないといけないんです」
デスクの上でイライラを主張していた店長の指先が、ぴたりと止まった。
「は?」
「いきなり店長が長期不在になるなんて、ありえないじゃないですか。だから異動は無理で。かといって、此処にいるわけにも…」
「ちょっと待って」
店長の視線が、ずぃっと下に降りて私のお腹に集中した。
「まさか」
「今、8週くらい、です」
こういう申告が、まさかこれほど照れるとは思わなかった。
私は、綻ぶ口元を誤魔化す為に唇を噛んだ。