恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~



商品のお届けも無事に済み、クレームにもならずに終わったのは良いのだが、全部が笹倉のおかげという事実に多少の苦さを感じざるを得ない。


私の方が売場経験は長いというのに。
短大出の私は今年で5年経つが、大卒の彼はまだ3年だ。



「それでもって、副店昇格だなんて。悔しいよぅ!」


いつもの帰り道、並んで歩く彼は飄々としたもので。


「さっきは満面笑みでおめでとうっつってたろーが。大卒上がりはそのうち店長やって最後は本社って流れが普通だし。その準備過程だろ」


オフモードはいつも、口調がフランクになる。


「他店の店長が体調不良で長期休養とるらしくてさ、うちの副店が店長として異動になったわけ。で、繰り上がりで俺が副店。棚ぼたみたいなもんだよ」



悔しい、けど、おめでとうってのも正直な気持ち。
だから。



「閑散期に入ったら、みんなでおめでとう会やったげよう」

「小学生か」



バッグの中で、携帯のバイブ音がした。
それは上昇しかけた気分の首をもたげさせるに充分な威力を持っている。


静かな夜道では、気づきたくなくてもよく響く。
取り出して、着信表示を見れば予想どおりの相手だった。


帰りの電車からずっと鳴っていることはわかっていて、表示されてる着信件数は20回。


出ずにいると、一旦途切れて、またすぐに始まる振動。
この繰り返しもいつものことだ。


けど。


溜息が深くなる。


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