恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
仕事が遅くなったのか、藤井さんが家へ来たのは20時も過ぎた頃で。
私の妊娠を知った彼は、思いっきり嫌そうに顔を歪めて舌を鳴らした。


「ちっ。結局やったもん勝ちって結果になんのか」

「…なんで私の周りってこういう下品な言い方しかしない人間ばっかりなんだろう」

「えっ、それって私も入ってる…んですよね」


恵美の歪んだ顔がこちらをにらんだので、大人しく頷いておいた。
藤井さんが、既に箱詰めの終わった段ボールを部屋の隅に運んで重ねてくれている。


「じゃあ、引っ越し先は笹倉んとこか」

「違いますよ、実家に帰るんです」

「は?」


訝しげな表情で、私に振り向いた。
結婚はしない、なんて言えば絶対馬鹿にされそうな気がして、私は素知らぬ方を見る。


「言わないんだって。シングルマザーの予定なの」


恵美が肩を竦めて代弁してくれた。


「…うわ、馬鹿だとは思ってたけど…ぞっとしねぇ」


その声は、心底呆れていて。
ちらりと顔を見れば、やっぱり眉間にがっつり皺が寄っていた。


「独りよがりも大概にしろよ」

「今更言えるわけないですし。困らせたり諍いの種残した状態で結婚したって良いことないじゃないですか」


刺々しい言葉にかちんときて私も刺を備えて返すが、更に返ってきた言葉はもっと辛辣だった。


「結局自分が不安要素抱えるのが嫌なだけだろうが」


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