恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「…いいも何も。狭山も、俺と離れたがってたんだし。これでいいんだろ」


恵美ちゃんの目は鋭すぎて、俺はまっすぐ進行方向だけを見た。


それにだ、第一。
俺は、許されないことをした。


狭山は、何もないように、平気な顔をしていたけれど。
恵美ちゃんにはきっと、何も言ってないんだろうけれど。


「俺、傷つけちゃったしな。そんな資格端からないんだよ」


あの捕物騷ぎで、帳消しにできたなんて思ってない。
力でねじ伏せた、あの行為を。


「…瑛人君が」


地を這うような声がした。
睨み上げる瞳が、涙で潤んで見える。


「そんな、ヘタレだなんて思わなかった。臆病者」


なんで、そんなに俺と狭山にこだわるんだか。
俺のしたこと、知らないから言えるんだろ。


でも。
臆病者には、違いない。


彼女の言葉には答えないまま、倉庫に着いた。


それ以上は話す必要も見つからず、それぞれの店舗の在庫スペースへと向かう。


山積みにされたダンボールの、中身の個数を確認し在庫整理する、その作業に没頭した。


数を数えるのは、良い。
余計なことを考えずに済む。

< 270 / 398 >

この作品をシェア

pagetop