恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
君にもう期待はするまい



休憩室がいつもより静かな気がするのは、皆疲労がたまっているからだと思う。


連日の忙しさに加えて誰もが殆ど休み無し。
この時期はお歳暮に加えクリスマスケーキの予約もあり、客は増える一方なのだ。


その点、カステラは余り需要が無い。
昨日の土曜日に休めたのはそういった店のカラーの違いによるものだ。


正月フル出勤という条件付きではあったが。


自動販売機でパックの飲み物を買おうと、硬貨をいれようとしたら、背後から手が伸びてきて、どれ、と聞かれた。


その声には、当然聞き覚えがあって。


「…いちごミルク」

「いつものコーヒーじゃないんだ」

「疲れてるから糖分補給」


販売機から音がして、彼が腰を屈めていちごミルクを下から差し出す。


「引越し作業お疲れ様」

「ありがとう」


そう言った瑛人君は完璧な営業スマイルで、私も作り笑顔で礼を言う。


相も変らず整った顔だが、目だけ鋭く見えるのは。
気のせい、ではなさそうだ。


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