恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「…今日、帰ってから私がちゃんと説明して、それから改めての方が良いんじゃない?」

「送って行って何も言わずに帰るのも、良い気しないだろ」


数秒、携帯を手に固まった私だったが、観念した。
親指で二つ折を広げて数度ボタン操作すると、父親の携帯に発信。


耳に充てながら横目で笹倉を見ると、至極、ご満悦のようで。
私はぷい、と外方を向いた。


呼び出し音を聞きながら。


どうも、躊躇ってしまう。
なぜかって。


笹倉が、急ぎすぎているような気がしてならない。
いや、私が呑気なのだろうか。


確かに、結婚するなら挨拶は不可欠だし、子供が生まれるまでに生活環境を整えなければならない。


住む場所をどうするか。
入籍はいつするか。


私の仕事はどうするか。


…仕事に関しては、またまた予定変更となると一条さんの視線が零度以下に下がりそうだが。


それは、まあ、仕方ない。
店長の背中に隠れよう。


やるべきことはてんこ盛りだが、昨日は昨日で婚約指輪に結婚指輪。
今日はいきなり親に挨拶。


…焦ってるように見えて仕方がない。


何度かのコールの後、父親の声が向こう側から聞こえた。


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