恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
笹倉は、おじ様おば様受けが良い。
然し乍ら。




「ちょっとお父さん!」



派手な音と共に、笹倉の身体が玄関の鉄の扉にぶつかった。
実家について、玄関に入ってすぐのことだった。



「子供の父親か」と開口一番に尋ねられ、彼が頭を下げた途端に父親の拳が飛んだ。


おじ様受けスキルは残念ながらうちの父親には発動しなかったのである。


いくらなんでも話も聞かずにいきなりすぎる。
私が文句を言いそうになるのを、手で制したのは笹倉で、言い訳せずに再び頭を下げた。



「彼女が一人で産むつもりでいたのは、不安にさせた僕の責任です」



いや、全然違うし!と口を出そうとして笹倉に睨まれる。


”黙ってろ”


それは、俺に任せとけ的な優しい目ではなく、頼むから余計なこと言うな、という邪険の目だった気がする。


父親にしてみれば、娘がシングルマザー宣言をしたのは不倫の末のことかもしれないと思っていたようで。


一貫して頭を下げ続けた笹倉といくらかの言葉を交わし、漸く安心はしたようだった。


然し乍ら。


「今日のところは帰ってもらいなさい」


結局彼は、玄関先で帰らされてしまうのだけど。


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