恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「ごめん。まさかここまで怒ると思わなくて」


一緒に玄関を出て、せめてと車まで送りに来た。
彼は別段、怒っても落ち込んでても居なくて、それが更に私の罪悪感を助長する。



「怒るもんなんだろ、父親って。とりあえず話は聞いてもらえたんだし、また改めて来るわ」

「私が電話であんな適当な言い方したから、余計だよね」

「…この後余計なこと言って喧嘩したりすんなよ」



くしゃりと唇を歪めて笑う。
まだ日が高いうちに、食事どころかお茶も出さずに返すことになるなんて。


申し訳なく、彼を見上げていると、大きな手がふわりと近づいて。
がしっと顔を掴まれて、軽く後ろに押された。



「…何すんのよ」


一歩後ろに下がらされて、離れていく指の間から彼を睨んだ。


「寒いから早く帰れよ」



そう言うと、運転席に乗り込んで、程なくしてエンジン音が鳴る。
運転席の窓が下がり、彼が少し身を乗り出した。



「電話、するから」

「うん」



軽く手を上げて見送ろうとすると、ちょいちょいと指で呼ばれて腰を屈めた。
途端、笹倉の顔が近づいて、少しの隙間を残して止まる。


超、至近距離で。


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