恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「何?」


この距離で停止してる意味がわからなくて、眉根を寄せる。


「恋人らしいことしようかな、って思った。んだけど」


キス、しようとしたんだとは思った。
咄嗟で反応できなかったけど。



「う…ん」

「お前、こういうの、嫌?」



嫌…っていうか…。
じっと此方を見つめる双眸が近すぎて、右、左と交互に瞳を見てしまう。



「甘ったるい空気って、苦手なんだって」

「子供には、ちゃんと仲が良く見せなきゃだめだろ」



ああ、そうか。
生まれるまでに、慣れとかなきゃいけないのか。


「いいよ」


そう呟いて、目を閉じると自分から唇を重ねた。
ほんの一瞬だけ。


外気で冷えた唇と、僅かな、水音。


すぐに身体を起こして、目を開けると。
どういうわけか、自分から言い出したくせに驚いて目を見開いている笹倉。



「…まさか真に受けてくれると思わなくて」



そう言われて、傍と気がつく。
頬どころか耳まで赤くなってるであろうほど、熱を感じた。


「ってか、よく考えたら子供の前でちゅっちゅちゅっちゅするわけないじゃん!」

「ちゅっちゅとか、大声で言う方がはずかしいだろ」


慌てて周囲を見渡す私を、彼が小馬鹿にしたように笑った。


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