恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
頬を挟んだ手が離れて、彼の笑顔に安堵する。


安堵…なぜだろう?
同情するなと言われるかもしれないが。


彼の事情を知る前とでは、笑顔の重みが違う気がした。



「なぁ、触っていい?」



唐突な言葉は、その目線の注がれた先を示していて。



「いいよ」



そういえば、そろりと利き手がまだ殆ど目立たないお腹の上に重なった。
ニットの上から、そっと当てるだけ。


気恥ずかしい空気。
だけど、茶化す気にはなれなかった。



「婆ちゃんあと5年頑張ったら曾孫に会えたのにな。踏ん張りが足りねぇな」

「踏ん張りって。自分のお婆ちゃんになんつうことを」



茶化したのは笹倉の方だった。



「生まれたら、お墓に連れてこ」



うん、と彼が頷いて、お腹にあった目線を上げる。
お互いの目が合って、どちらからともなく近づいた。


少し、角度を加えて、触れ合うまであと少し。




―――びーっ、びーっ。




メール着信。
私の携帯がテーブルの上で震えた。



「あ、多分恵美だ」

「ちっ」



くるりと顔を背けて、携帯を手に取った。
舌打ちを聞きながら受信箱を開くと、やっぱり恵美からだった。

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