恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「恵美ちゃん、何って?」

「うん、こっち来たよーってメールしたら、いつ遊ぶー?だって」



さっきのキスしかけた距離感のままで、笹倉が私の椅子の背凭れに腕を掛けた。
私はそのまま、とりあえず返信だけしてしまおうと携帯をぽちぽち弄る。



「お前の携帯、すげー古いよな。そろそろスマホに替えたら」

「あー…そうしようかな」



メールを作り終えて、はい、送信。
ぽち、と最後のボタンを押して、改めて自分の携帯を見てみれば、塗装は剥げてるわ傷だらけだわ、かなり年季が入ってる。



「スマホってすぐ充電なくなるって聞いたから、ずっと躊躇ってたんだけどね。もうお母さんの鬼電の心配もなさそうだし」



そうなのだ。
あれだけ私を悩ませた母親の鬼電は、お父さんが毎日病院にお見舞いに行くようになってから、ぴたりと止んだ。


病院にいて、飲酒できないからというのもあるけど。
お父さんが帰ってきたんだから、退院してもそれほど心配はないだろう。


お父さん効果、おそるべし。
感心する反面、危うさも感じるが。



「藤井さんにも言われたんだよね。前に一回スマホ借りたことあって」



あんまり興味はなかったのに、いざ触ってみると少し羨ましくなった。


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