恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
質問をはぐらかされた感があるものの、促されるままに考えて。


やっぱり、あそこだな、と思い出す日があった。



「うん、そうだ。やっぱ初めて笹倉と、ヤっちゃった日だ」

「ヤっちゃった、日。ね」

「えっちした日ね」

「いや、言い直さなくていいから」



はーっと、深く溜息が吐き出される音がして、彼が私の答えに不服なのが解かった。


だがしかし。



「お酒も入って酔った勢いもあったんだろうけど、ただの職場仲間とぺろっとそうなっちゃうんだから、やっぱそういう人なんだって。朝起きた時に妙に納得したの覚えてる」

「ふぅん」



あの日は、私が少し精神的に参ってて、慰めてくれたということも解ってるが。
そこは、敢えて言わなくても笹倉も覚えてる筈だと思った。


人に思い出させといて、イマイチ薄い反応に私が納得いかなくて彼の膝をぺちぺちと数度叩いた。



「実際その後も、合コン行って朝帰りだとか、しょっちゅうやってたでしょ」



そうそう。
例の引っかき傷事件の時とかね。


私の言葉に、笹倉は漸く腕の力を緩めて解放したが。



「…そうデスネ、俺の行いが悪いんです、スミマセンデシタ」



明らか拗ねた口調でそう言って、ぽん、と私の頭に掌を乗せた。


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