恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「…ちょっと、なんか噛み合ってねぇ気がするんだけど…」

「ん?」



何が、と眉根を寄せて見上げれば、それでもまぁ、さっきよりは幾分マシな顔がある。



「信じてくれるんなら、ま、いいや」



そう言った笑顔は、穏やかだった。





その日の夜は、久々に一緒のベッドで眠ることになる。


長時間の移動で案外疲れていたのか、すぐにうつらうつらしはじめた私のお腹に、笹倉が両手を当てて時折指先で撫でた。



「見た目殆ど変わってないなと思ってたけど、触るとやっぱり出てきてんな」

「んー…服も、ゆったり目選んでるから、見た感じじゃわかんないかもね」



くぁ、と小さく欠伸を噛み殺しながら答える。
首筋を髪がさらりと撫でて、耳元で低い声が囁いた。



「眠い?」

「うん。そっち向いていい?」



返事を聞く前に、腕の中で反転した。
シャツの胸元に顔を寄せてすぅと息を吸い込めば、肌の匂いが更に眠気を助長する。



「人の匂いっていいな」

「匂いフェチ?」

「かもね」



さっきは檻のように思えた彼の匂いが、今は私の安心材料で。


そういうものか。


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