恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「ねー。パパすぐ拗ねるねー」



そう言って、あろうことか情けない俺の姿をお腹の子に伝えようとしやがって。



「ちょ、やめろって。聞こえたら嫌だろ」

「もー遅い」



べ、と舌を出した、悪戯っ子を演出した彼女に、俺の口元も綻んだ。



「子育てするんでしょ、一緒に」

「ん」

「じゃあ、もういいじゃん。今までのことなんて」



まだそれほど目立たないお腹を撫でながら、視線を落とす彼女の横顔が、もう母親の表情を持っていて。


敵わないな、と悟った。


それでもせめて、例え彼女にとっては全部過去の話でも、これからの俺は信じて欲しかったから。


彼女の頭を少し乱暴に撫でて、言った。



「今からの俺は、ちゃんと見てて。大事にするから」

「わかってるよ。無責任な人じゃないのくらい知ってる」



何を今更、と当然のごとく頷く彼女。


今の俺は、ちゃんと自信を持って彼女が好きだし、もうよそ見したりはしない。
そういう意味で言ったんだけど。


彼女の返事はちょっと、ニュアンスが違うような気もしたが。



「…ちょっと、なんか噛み合ってねぇ気がするんだけど…

 信じてくれるんなら、まぁいいや」



訝しい表情を見せる彼女に、笑って答えた。


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