恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「けっこ、幸せだし」



やはり疲れていたのだろう、うつらうつらといった様子でそう呟くと、すぐに寝息が聞こえてきた。



―――― 参った。



彼女は、俺に見え隠れする不安も嫉妬も全部気づいててそう言ったのだと解かった。


返事は子育て終わってからでいいとか、カッコつけといて。
一人で焦って勝手に嫉妬して、翻弄されている。



『なんかもう、もやもやしたものとか、そういうのに振り回されたくないの』



その言葉の意味を今更ながらに実感した。



「ごめん」



もう既に熟睡体制の彼女の耳元で、小さな声で囁くと、少し身を捩って何か返事のような声も聞こえたが。


すぐにまた寝息をたてはじめた。


こうなってしまうと、女の方がどこか落ち着いてるもんだな、と思う。
いつまでも子供なのは、男の方か。


掛布団を引っ張り上げれば、するりと衣擦れの音がする。
彼女の身体を肩まですっぽり布団で覆わせて、シャンプーの香りのする旋毛に唇を寄せた。


とりあえず引き続き、今夜も禁欲で。


静まれ、サル。

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