恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
あ。


手渡す瞬間、彼の指が手の甲に触れて、筋を辿りながら指先まで。


ちらりと視線を上げる。笹倉はこちらを見向きもせずに唐揚げをつつき始めた。
絶対、わざと。指も、視線合わせないのも。


「みさ、まだ赤いよ」


今度のツッコミは恵美だった。恵美までその話題に食いついちゃうの?!


「いっそのこと付き合っちゃうってのはどうですか?」


乙女な話にどうしても持ち込みたいカナちゃんに、いや、欲情しただけだから。と言いたいオヤジな自分を何とか押し込めて。



「いーかげんうっさい酔っ払いめ」


ペシン!!先ほどより手首のスナップを効かせた、2度目。


「ぎゃ!」


額を摩るカナちゃんはもう無視だ。私は携帯をひらひらかざしながら立ち上がる。



「電話鳴ってるから、ちょっと外出てくるね」



酒効果で乙女フィルターがかかっている二人に挟まれるなんて冗談じゃない。


つまり、逃げた。



「狭山さんだって選ぶ権利ありますよねー」



背後で三輪さんの声を聞きながら、一人に選ぶ作業ができなくて恋愛放棄したんだよーとか。


胸の中で突っ込んだ。
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