恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
アイスコーヒーを入れて母の隣に座る。見ると、私がまだ赤ちゃんの頃のページだ。



「お父さん、みぃちゃん生まれた時すごく喜んでね」

「嬉しそうな写真だね」

「帰ってこないかしら」

「二人でいいじゃない。なるべく会いに来るよ」



んー…って唸りながら、また泣く。
昔は底抜けに明るかった、今はただ、弱い人。


愛し合ってても、こうやって簡単に置いていける。
置いていかれたのに、なんでまだ想い続けられるんだろう。


そこまで考えて、気付いた。


愛情なんてそれほど価値のあるものじゃない、と思う自分。
反面、傷ついてもまだ想い続けられる姿を少し、羨ましいとも思う。


……自分の中での「愛情」の立ち位置が曖昧だ。


手の届かない程遠くにも感じるし、道端に落ちている石ころのようにも感じる。


頬杖をついて、母を眺めた。


目の前の、想い出にすがる姿が、成れの果てであることは確か。
この人を見て、執着する感情なんてなくなってしまったのかもしれない。



今日みたいに一緒に写真を見て、思い出話をすれば安定してくれる。
これでまた、暫くは落ち着いてくれるだろう。


夕方、そろそろ帰るね、と腰を上げた。
明日は仕事だ。


実家と今住んでいるアパートとは2時間くらいの距離がある。

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