恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「みぃちゃん、何かあったの?」

「え?」


玄関先、不意にかけられた言葉に驚いた。


「今日、時々爪噛んでた」


不安な時の癖、抜けないねって苦笑する母に少し泣きそうになる。

思わず、ぽつぽつ、弱音がこぼれた。


「友達、怒らせちゃって。なんでか、わかんないけど、多分、いい加減な恋愛してるからだと思う」


さすがに身体の関係とは、言えなかったが。


「仲直りしたいけど、どうしたらいいかわかんなくて。あれから避けられてるし」

「ごめんね。お母さん達が、みぃちゃんに失望させちゃったのかもしれないね」

「お母さんのせいじゃないけど、でも…正直、わかんない。恋とか、愛、とか。」



わかんない、というよりも、重きを置きすぎてはいけない気がする。
期待しては、いけない不確かなものなのだ。


目の前の、この人には言えないけれど。



「でもねぇ。お父さん、ちゃんと愛情深い人なのよ」


はっきりとそう言った声は力強くて、顔を上げれば、昔の明るい母の顔があった。


「お父さん、信じてあげて。悪いのはお母さんなの」


二人に何があったか、私は知らない。
だけど今、母の顔は三人一緒だった頃の笑顔のままで、少しだけ信じたくもなった。


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