恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~



こうして弱った時に限って、面倒なことは起きるものだったりする。


午前中、やはり閑散とした店内では、お客様より明らかに販売員の方が多い。
問題なく、笹倉と合わせた12時には休憩に入れるだろうな、と思いながら、俯いてあくびを噛み殺していた時だった。


足元に、男性の革靴が見えて、慌ててお辞儀をする。



「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」

「2千円か3千円くらいで、得意先の手土産なんだけど」

「それでしたら……」



ざっとガラスのショーケースの中に視線を泳がせる。
うちの売りは、一応バームクーヘンだ。


定番のクッキーとの抱き合わせのギフトを手で示しながら、お客様の反応を伺う為顔を上げた。



「当店の定番ですが、こちらの商品がお日持ちも致しますし……オススメです…よ…」



言いながら、じっとお客様の顔を凝視してしまう。
向こうも此方に気づいたようで。


あぁあぁとか言いながら、人差し指を軽く回す。


まずい。まずい。
何か口走りそうな予感が。


かといって、今この状況で相手の口を塞ぐ訳にもいかず、だけど塞いでしまいたい。




「くれはちゃん!制服だからわからなかったよ」



的中した!売場でそれやめて!
偽名だからぁ!


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