恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~




「瑛人君さぁ!」



一際高く、棘のある声が聞こえた。

くれはちゃんの荷物を取りにテーブルに戻ってきたちょうどその時だった。さっき出くわした子だろうとすぐにわかる。



「みさのことになると、過保護すぎるんじゃないの?」



その言葉で、あの子の怒りの根源が推測できた気がした。


なるほどね。
うまくいかないもんだ。


しん、と静まり返った空気が痛々しいほどに、あの子を切りつけてるような気がする。


誰もこちらには気づかないので、彼女の荷物の置かれてる椅子をひく時に態とカタンと音をたてた。



「彼女の荷物、これ?具合悪くなったみたいだから車で送るわ」



空気は無視の俺の声に、一斉に視線が集中した。



「え…美里さん、気分悪いんですか」

「そう。もう、顔ぐちゃぐちゃのげろげろだから。ここの払い、後日俺に回すよう店員に言ってあるから、好きな時に捌けていいぞ。あんま高い酒いれんなよ」



敢えてこの展開に乗っかったものの、えらい出費だ。
今更、割り勘だとかカッコ悪くて言えねぇし。


2度とノリで行動するのは止めよう。


荷物を手に、彼女のところへ戻ろう背を向ければ



「俺も行きますよ。狭山と家近いんで」



他のメンツ放り出して俺の目の前まで出てきたのは、件の色男だった。
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