恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
笹倉。
はっきり覚えてはいないが、初めて会った日の会話にあった名前と多分同じ。


彼女の都合のいい男。


おいおい。
この空気放置してお前まで帰る気か。


あの子の言う通り、過保護っぷりに吹き出しそうになる。



「初見の人間に預けるのは心配だろうけど、ここは取引先だし店長は知り合いだし。俺の身元はすぐわかるから」



……何言ってんだ俺。

未成年相手にしてるわけじゃあるまいし。
馬鹿馬鹿しくなってくる。



「何かあったのは察してるんだろ。こっち心配なのもわかるけど」


くぃっと顎で背後を示してやる。


「あの子もほっとくのまずいんじゃないか」



貯蔵庫の前で、あの子の冷ややかな表情は、踵を返す僅かな一瞬何かをこらえるように見えた。

笹倉はまだ少し迷ってはいたが、結局俺に会釈して退く。



「…わかりました。狭山に後で電話すると伝えといてください」



男というより、保護者に見えてくる。


笹倉の目に俺に対する敵意は今のところ見えないが、ただ、じっと見下ろす俺に、物怖じしない真っ直ぐな視線を逸らさず返してきて、それはまるで。


品定めでもされてる気分だった。


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