恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
そのセリフに、驚いて横顔を見た。
言葉の続きが、聞けるのかと思って。


しかし、車が三叉路に近づいて、その口からでたのは。


「どっち?」

「あ、そこを右ですぐのところのアパートです」



フロントガラスの向こう側を指差した。
ヘッドライトの先に私のアパートが見える。


ん、と頷きゆっくりとスピードを落として、少し過ぎた塀際に停車した。
それから私は、言葉の続きを待ったのだけど、藤井さんはこちらをみて不思議そうに言った。



「降りないのか」

「いえ、さっきの続き。話してくれないんですか」

「あー……」



両腕をハンドルに乗せて前屈みの思案顔は、少し言い淀みながら、言葉を選んでいるのが見て取れた。



「……あの子も、思うように恋愛できてないんだろうなって思っただけだ」



当たってたとして、俺が口にしていいことじゃねーし。
顎を撫でながら、独り言のように呟いた。


この人は、ほんの僅かの時間、恵美を含め皆と飲んだだけで、何を察したんだろう。


恵美が、彼と上手くいかず悩んでいるのだったら、私は今まで何を見てたのか。
自分が余りに不甲斐なく感じて、両手で頬をぱちんと叩いた。



「ま、今日はゆっくり寝て明日考えな。ほれ、早く降りろ」



言いながら、片手でしっしっと追い払うような仕草。


少し意外に感じた。
てっきり、寄っていこうとするのかと思ったから。
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