恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
「寄ってかないんですか?お茶くらいだしますけど」

「送り狼期待してる?」


にやりとまた、嫌な顔。
きっとこれだ、いちいち腹が立つ理由。



「……そんなこと言ってないですけど。送ってもらったんだから社交辞令です」



直視したら腹立たしいだけなので、そっぽを向いて可愛くないことを言う。
だけど、期待したのかもしれない。


私はやっぱり、だらしない。
いちいち誰かに慰めてもらおうとするのだから。


嫌われて当然だ。
自嘲的な考えが浮かんで、不意に笑みが溢れた。



「そういう顔やめろ。可愛くねぇ」



途端にきっぱりと否定されて、思わずきょとんと藤井さんを見つめた。
藤井さんは、ふんと鼻を鳴らすと、それくらいなら仏頂面の方がなんぼかマシだ、と言った。



「弱ってるとこに付け込むようなやり方は好きじゃないからな」



男の人というのはそういうチャンスがあれば、上げ膳据え膳で飛びつくもんかと思ってたけど。


私は軽く肩を竦めて、車を降りる。


ドアを閉めると、すぐにウィンドゥが下がって、助手席側に前屈みになる藤井さんの顔が見えた。



「悪い、何より、その顔はちょっと、抱く気にならんわ」



歪んだ笑顔をうっかり直視してしまった。
今度は、涙で目の下パンダの悲惨な顔のことを言われたのだとわかって、徐にバッグを振り上げたけど



「じゃあな」



重低音と排気ガスを残して走り去る車のバックライトに、いーっと唇の端を引っ張って見送った。

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