恋愛放棄~洋菓子売場の恋模様~
窓からは遠くて、外灯も仄暗いから表情までは見えない。
だけど声は携帯越しによく届く。



「恵美に言われたことちゃんと考える。だから今日はやめとく」


そんな、遠いけど近い、変な距離感が少しせつない。


「藤井さんは誘ったくせに」


痛いトコつかれた。


「……お茶に誘っただけだもん」



自分の職場も家も知られた相手を誘うなんて、今までなかったことだ。
笹倉以外に。
だから、微かにあったように思う下心は……気のせいだきっと。



「嘘つけ」

「何、なんで今日はそんなつっかかんの」



言葉が音に成らずに、息だけが漏れたような気配がした。
珍しく、笹倉が動揺しているように感じて、そのまま言葉を待ってみる。



「……なんでだろう」



いやいや。なんでなの。



「とりあえず行くから開けて」



ぷつ、とそこで電話が切れて、彼の姿が見えなくなった。

ふ…

今日は兎に角、溜息が多い。どれくらい幸せ逃げたかな。


おっかけるのが大変だ。
とか、くだらないこと考えてたら、インターホンが鳴った。


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