シルティアの魔術師
「…立てる?」


少女が私に向かって手を伸ばす。
私は一瞬躊躇し、ゆっくりと彼女の手に捕まった。


ー少女の手は、温かかった。


思えば両親を亡くして3年、私はただ1人で孤独に生きていて、人の温もりなど忘れてしまっていた。


ー私の頬を、無意識に涙が伝う。


初対面の人間の前で涙を流すなんて自分にとってありえない事であったが、私にそれを止める術はなかった。


少女は私の手を離さず、静かに私の前に腰を下ろした。


そして、私の涙が止まるまで彼女は一言も言葉を発さなかった。
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