君が好き。~完璧で女嫌いなカレとの恋~
「よっと」
店を出て、やっとの思いで助手席に櫻田を乗せる。
自然と肩を叩いてしまう。
いくら櫻田が軽いとはいえ、人間一人を運ぶには、それ相応の体力を使う。
「疲れた...。なんだって俺がこんな目に...」
運転席に座り、思わずハンドルにもたれ掛かる。
隣を見ると、いまだに櫻田は気持ち良さそうに眠っていた。
そんな櫻田を見ていると、つい口元が緩む。
「そういえば櫻田が入社したばかりの頃にも、こんなことがあったな」
エレベーターの中に閉じ込められて、櫻田の体調が悪くなって。医務室まで抱き抱えて走ったな。
あの時はすぐに着ていたスーツを脱ぎ捨てて、家に帰って着替えた。
でも今は、すぐに着替えたいとは思わない。
かと言って女嫌いがなくなったわけじゃない。櫻田以外の女に触れたいとは思えないし、触れてほしくもない。
そっと身を乗り出し、櫻田に近付く。
「...櫻田にだけだよ、こんな気持ちを抱くのは」
規則正しい寝息をたてて眠る櫻田の鼻をそっと摘まむ。
「どうしてくれんだよ」
「...んっ」
息が吸えずか、あんなに起きなかった櫻田が目を覚ました。
「...東野しゃん?」
しゃん?
しばし櫻田と至近距離の中、見つめ合う。
「...なんでそんなに女嫌いなんれすか?」
「は?」
何を言うのかと思えば、突拍子もない言葉に返す言葉が見つからない。
「だーかーらー!」
「あっ、おい!櫻田!?」
急に櫻田は俺の首に手を回し、抱き着いてきた。
櫻田の甘い匂いに襲われる。
「えへへ。くっついてやったぞ!参ったか!」
そんなガキみたいな発言に、一気に身体の力が抜ける。
人の気持ちも知らないでこんなことしやがって。
「櫻田、離せ。帰るぞ」
このままずっと一緒にいるわけにはいかない。
「嫌れす!!」
「おい!?」
離してくれるどころか、櫻田はさらに俺に抱き付く腕に力を入れ、密着してきた。