君が好き。~完璧で女嫌いなカレとの恋~
久し振りの人の温かいぬくもりに、思わず笑みがこぼれてしまう。


こんなにも人の体温って温かくて、安心できるものだったんだな。


どれくらいの時間、櫻田を抱き締めていただろうか。


ふと、櫻田の気持ちが聞きたくなりそっと声を掛ける。


「...櫻田?」


「......」


名前を呼ぶが、返事がない。


まさか...。

嫌な予感がしなからも、そっと櫻田を離すと、予感は見事に的中しており、深い眠りにまたついてしまった櫻田が、俺にもたれ掛かってきた。


「普通寝るか?このタイミングで」


あれだけ泣いて訴えてきやがったくせして、寝るなんて...。


「つーか、またこんなに気持ち良さそうに寝やがって。これからどうすりゃいいんだよ」


部下と言えど、さすがに家までは知らない。


櫻田をそっと寝かせ、ケータイを取り出す。


確か会社のパソコンに情報が入ってたはず。


「この時間ならまだ藤原がいるだろう」


今日は仕事が山積みだと言っていたし。


そう思い、藤原に電話を掛けるとすぐに出た。


「どうした?今日は優の接待じゃなかった?」


「あぁ。接待だったよ。悪いんだが、パスワード教えるから俺のパソコンから櫻田の住所を見てくれないか?」


「えっ?なになに!?櫻田のこと、家まで送っていくの?なんかあったわけ?」


顔を見ていなくても分かる。

藤原の奴、今の現状を勝手に想像して楽しんでいるに違いない。


「悪いが事情は後で話すから。すぐに俺のパソコンを見てケータイに住所を送ってくれないか?」


「はいはい。その代わり絶対に後で教えろよ」


「分かったよ。じゃ悪いが至急頼む」


すぐに電話を切る。


あとで藤原に話さなくてはいけないのかと思うと、自然と溜め息が出てしまう。


「んー...。東野...しゃん」


「起きたか?」


眠っているはずの櫻田の声に、一瞬驚きなからもすぐに櫻田を見るが、目が覚めたわけではなく、どうやらただの寝言だったようだ。


がっかりしながらも、寝言で俺の名前を読んでくれた現状に、素直に嬉しさが込み上げる。


「...今日のこと、ちゃんと覚えてろよな?」
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