君が好き。~完璧で女嫌いなカレとの恋~
「家まで送って頂いてありがとうございました。ここからは俺が部屋まで運ぶので大丈夫です」


「あっ、はい」


俺がおかしいのだろうか。

彼の言葉に、胸がムカムカするのは。

分かってはいる。

彼は櫻田とは、昔からの付き合いで幼馴染み。

...だけど、それだけの理由で大人の男女が一緒に住めるものなのか?

何人で一緒に暮らしているかは分からないが、もしかして二人っきりで暮らしているのだろうか?


「あの、東野さん?菜々子、いいですか?」


なんだ、これ。

みっともなく嫉妬してる。

櫻田を渡したくない。

今は俺の腕の中で、気持ち良さそうに眠っているのに...。

彼に渡したら、櫻田は今と同じように彼の腕の中で気持ち良さそうに眠るんだろ?


そんなの、気に食わねぇ。


櫻田を抱き抱える手に、思わず力が入る。


そんな俺の心情を察してか、彼の声色が変わる。



「...菜々子、風邪引いたら大変なんで。いい加減渡してもらってもいいですか?」


「っ!...」


返す言葉が見つからず、しばし彼を見つめる。

彼も同じように俺を見つめる。


お互い、敵意を剥き出しにしながら。


間違いないだろう。
彼も櫻田に対して俺と同じ気持ちを抱いている。


分かってる。
俺が間違ってると。だけど当たり前な感情だろ?
好きな女を渡したくねぇって思うのは。


「...んー...いたい」


つい、櫻田を抱く手に力が入ってたためか、あんなに起きなかった櫻田がタイミングよく目を覚ました。


「よかった。菜々子、眠いんだろ?部屋まで運んでやるから行こう」


そう言って彼は櫻田に両手を差し出す。


「...あれ?翔ちゃん?たらいまぁ」


「...久々に相当酔ってるな」


思わず緊張がはしる。

櫻田はこのまま、彼の腕の中へといってしまうのだろうか。


つい櫻田を見つめていると、そんな俺の視線に気付いてか、櫻田と目が合う。

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