君が好き。~完璧で女嫌いなカレとの恋~
「...で?昨夜は櫻田とどんな素敵な一夜を過ごしたの?」


いきなりの質問に、思わず力が抜ける。


「あのな、別にただ優の酒を間違って飲んで酔っ払った櫻田を、家に送っただけだから。悪いけど、藤原が期待しているような展開なんて何一つないからな」


一気に言い、少し冷めてしまった珈琲を一気に飲み干す。


「...本当に?」


「本当に!!」


「な~んだ、つまんねぇの。話聞くの楽しみにしてたのによ。普通は何かあるもんだろ?独り暮らしの酔った女を送って行ったらさ」


「いや、櫻田は独り暮らしじゃねぇよ」


「えっ!じゃあ実家暮らし?それじゃ気まずかったんじゃね?」


「...いや、実家暮らしでもない」


「じゃあ、もしかして彼氏と同棲?」


「いや...」


彼氏と同棲、ね。
いっそそうだったらまだ良かったのかもしれない。


「多分友達とルームシェア」


「へぇ。なんか意外」


『友達』本当にそうだったらいいのに...。

明らかに彼は櫻田を想っているんだろう。

そうでなかったら、俺に対してあんな敵対視しない。

櫻田は気付いているんだろうか?
彼の気持ちを...。


「じゃあ本当に何もなかったんだな。つまんねぇ」


そう言いながら、残念そうに項垂れる藤原。


...別になにもなかったわけじゃない。

だけど、昨日の夜のことは誰にも話したくない。


酔っていたとはいえ、櫻田がくれた言葉や、見せてくれた仕草。

あれが櫻田の本音なんじゃないか、と信じたい。


そうだったら、どんなに嬉しいか...。


「じゃ珈琲も飲んだし、帰って寝るかな。さすがに徹夜明けは辛い」


「おう。帰れ帰れ。俺も休日くらいゆっくり過ごしてぇし」


「はいはい。どうぞゆっくりと素敵な掃除日和をお過ごし下さいね」


嫌味ったらしく言いながら、藤原はさっさと玄関へと向かい、帰って行った。


「人騒がせな奴」


二つのマグカップをキッチンへと運び、洗う。


だけど、まぁ...。
こうやって訪ねてくれる友人がいるって、幸せなことだとも思う。


今はまだ言いたくねぇけど、いつか藤原にはちゃんと、俺の気持ちを話そう。

あいつなら、きっと大袈裟に喜んでくれるんだろうな。

想像すると、口元が緩む。


蛇口を閉め、窓のカーテンを開けるときれいな青空が広がっていた。


煙草と灰皿を持ち、ベランダへと出る。


煙を肺へと流し込み、空を見上げた。


...月曜日、櫻田はどんな顔をして来るのだろうか。


そんな櫻田に、俺はどんな顔をして会えばいいのだろうか。


「...可笑しな話だな」


女になんてもう一生関わりたくなかったし、恋愛なんてしないと思っていたのに...。


櫻田はそんな俺の気持ちを簡単に崩しやがった。


俺にとって、彼女はこんなにも特別な存在になるなんて、思いもしなかったな。


ーーーーーーーー

ーーーーー


月曜日。
朝一で副社長の元へと向かい、見合いの話を断った。


追及されると思ったが、意外にも副社長は「分かったよ」と、笑顔で一言だけ。


まるでこうなることを分かっていたかのように...。


それから営業部へと向かい、山積みの仕事に取り掛かった。

それでも何度も腕時計で時間を確認してしまう。

櫻田が出勤する時間を...。


時間が過ぎていくごとに、期待してしまう自分がいる。

櫻田の気持ちに。


だけど、そんな俺の期待は見事に打ち砕かれてしまった。


櫻田には、あの夜の記憶がなかった。

あれは櫻田の本音じゃなかったのか?。


俺だけが浮かれていたのかと思うと、子供みたいに腹が立ってしまい、いつも以上に冷たく接してしまう。


取り敢えず、見合いがなくなったことを伝えると、櫻田は追求してきた。


そんなの、櫻田が好きだからに決まってんだろ?

好きな女がいるのに、見合いなんてできるか。

いまだにきょとんとしている櫻田に、言ってしまった。


「櫻田のせいだよ」


「えっ?」


本当に櫻田のせい。

こんな気持ちにさせた櫻田が悪い。


30過ぎた男に、こんなガキみたいな感情を持たせた櫻田が悪いんだからな。


ーーーーーーー

ーーー

奈津美と別れてから、女が嫌いになった。

なのに彼女だけは、自分でも信じられないくらいに特別な存在になってしまった。






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