君が好き。~完璧で女嫌いなカレとの恋~
私の声など全然聞こえてないかのように、橘さんはさっさと行ってしまった。



「っもう!」


手にしていた伝票を強く握りしめ、ゆっくりとレジへと向かった。


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ーーーーー


「櫻田、これに名前を書いてくれ」


「えっ...?」


休憩が終わり、自分のデスクで仕事をしていると急に藤原係長が近付いてきて、一枚の紙を差し出した。


見てみると、社内旅行の参加者名簿。



「書いてくれって言われても...」


まだ東野さんに確認してないし。


「悪いけど櫻田は参加決定だぜ。なんたって東野が参加するんだから」



「...えぇっ!?」



「バカ!声でけぇから」


思いがけない話に、つい大きな声を出してしまい、一気に営業部内の視線を集める。


「ごっ、ごめんなさい...」


だけどそんな視線も一瞬だけで、また忙しい営業部へと戻った。


「あの、それで本当に東野さんも参加するんですか?」


さっきとは違い、そっと藤原係長に囁く。


「本当だよ。櫻田が持っている紙を見てみろよ。ちゃんと東野の字で名前が書いてあるだろ?」


「...本当だ」


きれいな字で『東野圭吾』って書いてある。


「私、東野さんは絶対社内旅行なんて参加しないと思ってました。そもそも東野さんが参加してるところなんて見たことないし」


毎年毎年、期待を込めて周囲を探してたけど、一度も旅行中に東野さんを見かけることはなかった。


「そりゃ部長クラスになったら、半強制みたいなもんだからな。暗黙の了解で。まぁ...、それでも俺も正直、東野が参加するとは思わなかったけどな」



「そうだったんですか」


それでも東野さんも社内旅行に参加するってことが嬉しい。


「これ聞いたら櫻田も勿論参加だろ?」


「...えぇ、まぁ」


意味ありげな笑みを浮かべながらそう話す藤原係長。


私の気持ちを知っているんだから、別になんてことないはずなんだけど、やっぱり恥ずかしくなってしまう。


そんなことを考えながらも名前を書き、藤原係長にそっと差し出した。


「じゃあ、よろしくお願いします」

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