君が好き。~完璧で女嫌いなカレとの恋~
階段を昇っていく東野さんの後ろ姿を見つめながら、あの人が私の恋人なんだって、実感が込み上げてきた。


それと同時に、一気に私の体温も上昇していく。


「ダメだ。外の風に当たろう」


また重い荷物を抱えて、エントラスを抜け外に出る。


退勤ラッシュのこの時間、沢山の人が溢れていた。

夏のこの時間がとても好き。

暑い日中とは違い、心地好い風が吹く。

この風が昔から好きで、学校の部活帰りに一人で風に当たっていたり、大学生になってからも、一人でよく公園を散歩しながら、この風を感じていたっけ。


懐かしいな...。


「ま~た風に当たってたのか?」


「えっ?」


ふいに聞こえてきた声。

振り返ると、そこにはなぜかスーツ姿の翔ちゃんがいた。


「昔から好きだったよな、菜々子は。夏のこの時間帯の外が」


「えぇっ!?しょっ、翔ちゃん?一体どうしたの?こんなところに...」


突然現れた翔ちゃんに驚きを隠せない。


「菜々子を迎えに来たんだよ。荷物重いと思ってさ。ちょうど仕事も早く終わったし」


「そっか、ありがとう」


普段だったら、素直に嬉しくて喜べたはずなのに、今は喜べない。

だってこれから東野さんと一緒に帰る約束をしているから。

「...菜々子?」


うん、ちゃんと言おう!だって翔ちゃんは大切な幼馴染みで、よき相談相手で、理解者で...。

ううん。違う。


私、ズルい。


そして私は気付かないようにしてる。

翔ちゃんの気持ちに気付かないふりして、翔ちゃんを傷つけようとしている。

だけど、私が好きなのは...。


「櫻田、待たせたな」


「あっ... !」


「えっ...?」


タイミングよく現れてしまった東野さんに、どうしたらいいか分からず状態。

それは、東野さんも翔ちゃんも同じ様子。


どうしよう..!


「えっと、すみません。菜々子を迎えに来たんです。旅行の荷物が重くて電車に乗るのが大変だと思って」


先に口を開いたのは、翔ちゃんだった。


「そうだったんですか。...良かったな、櫻田」


「えっ?」


東野さん、今なんて言った?


「その荷物を持って電車に乗って帰るのは大変だろ?」


「そうですけど...」


なんで?



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