君が好き。~完璧で女嫌いなカレとの恋~
唇を離されても、東野さんとの距離は近くて、少しでも動けばまた唇が触れてしまいそうな距離。


「...したくねぇわけないだろ?すっげぇしたかったよ」


そう言うとまた唇を塞がれる。


「今日は帰さねぇからな」


この人が私の好きな人...。


この瞳もこの腕も、全部が愛しいって思ってしまう私は、どこか可笑しいのだろうか。


自然と私の両手は、東野さんの背中へと回る。


このままで帰れるわけない。


その先はもう東野さんしか見えなくて、恥ずかしいとかそんな羞恥心すら感じる余裕もなくて...。


東野さんがくれるぬくもりをただ、感じるばかりだった。


「...菜々子」


何度も何度も私を呼ぶ声。

切なく私の名前を呼ぶ声。

その度に私の胸は苦しくなる。


「東野、さん...」


そう呼ぶとまた唇を塞がれる。


「違うだろ?」


「えっ...?」


「こんな時まで名字で呼ぶな。...圭吾」


そんな急に名前でなんて...。

身体は宙を浮いてるかのように、ゆらゆらと揺れているのに、頭はそれを許してくれない。


「ほら、菜々子。...言えよ」


そう言ってじっと私を見つめる瞳に、逆らえない。


「圭吾さん...」


いきなり呼び捨てなんて出来ないわ。


そんな私の精一杯に気付いてくれたのか、圭吾さんは優しい笑みを見せてくれた。


「菜々子...。好きだよ」


その表情に、言葉に、幸せな気持ちが溢れ出してくる。


橘さんの言ってた通りね。

知らなくては分からなかった。

こんなにも幸せで愛されてるって感じられるなんて...。


ーーーーーーー

ーーー


「......」

目を開けると、知らない部屋に背後から温かなぬくもり。


そうだ...。私、東野さんと。


そっと振り返ると、東野さんは気持ち良さそうに眠っていた。


寝顔、初めて見ちゃった。


バッと視線を戻し、恥ずかしさのあまり、布団を被る。


...久し振りだったけど、意外に大丈夫なものなのね。


「...菜々子?起きたのか?」


「はっ、はい!」


ヤバッ!声が裏返っちゃった。


「アハハ!なに緊張してるんだ?」


そう言うと、背後からぎゅっと抱き締められた。


直接触れる肌に、恥ずかしさが増す。


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