君が好き。~完璧で女嫌いなカレとの恋~
「このまま聞いてくれないか?」


「...?はい」


私を抱き締める腕の力が増す。


「...ここ来る前に聞かれた質問の答え。俺が女嫌いなのは知ってるだろ?」


東野さんの言葉に頷いた。


「別に昔から女嫌いだったわけじゃないんだ。それなりに恋愛してきた。ただ...」


言葉が詰まる。...東野さん、思い出してるのかな?


「ただ、な。あることがあって、それがきっかけで女がダメになった。特有の匂いも、触れる感触も全てが...。だけど今は違う。こうやって菜々子に触れてるし、過去のことを忘れちまうくらい、菜々子に惹かれてる」


東野さん...。


「それに、したくてもできなかった。...いい歳しておかしいけど、怖かったんだ。もし、菜々子に触れた時、いつもの女嫌いな癖が出ちまったらって。だけどそんな心配、無意味だった。そんなこと気にする余裕もなかったよ。ただ菜々子に触れたくて仕方なかった...」


東野さんの言葉に、涙が込み上げてきた。

ずっと知りたかった。東野さんの過去を。

相田さんから聞いたような話じゃなくて、まだ全部は話してくれていないけど、もう充分だよ。


身体の向きを変え、東野さんと向き合う。


「...俺、意外に女々しいだろ?仕事中はただ、夢中でやってるだけでさ。楽しいし、生き甲斐みたいなものだからな。だけど、大切なものが出来ると、こんなにも弱くなる」


それは元カノの時からですか?

そう聞きたかったけどやめた。

聞かない方がいいこともあるし、聞かれたくないこともあると思うから...。


「不思議だな」


「えっ?」


「菜々子の存在は知っていた。だけど、俺が部長に昇進して菜々子が俺の秘書にならなかったら、きっと今はないと思うからさ」


「東野さん...」


「圭吾さん、だろ?」


「えっ!?」


「なんだよ、さっきは普通に呼んでたくせに」


そう話しながら笑う東野さん。




< 273 / 411 >

この作品をシェア

pagetop