君が好き。~完璧で女嫌いなカレとの恋~
ケータイを取り出し、発信ボタンを押す。
耳元から呼び出し音が聞こえてくると同時に、聞き覚えのある着信音が近くで響き出した。
あれ...?
音が聞こえる方へと足を進めると、東野さんの姿が見えた。
『もしもし、菜々子?』
そして耳元から聞こえてきた声。
「東野さん...」
『どうした?何かあったのか?』
そう話をしながらこちらへと向かってくる東野さん。
『菜々子?』
私は立ち止まったまま、東野さんを見つめていた。
『...菜々子か?』
ケータイは耳元から離れ、気付いてくれた東野さんの元へと駆け寄る。
「どうしたんだ?今日は用事があったんだろ?」
「あの、副社長と大貫さんは?」
「あぁ、今さっきタクシーで帰ったよ」
「そうですか...」
よかった。
一気に安心感に包まれる。
「で?菜々子はどうしたんだ?」
「あっ、えっと...」
どうしよう。いきなりすぎるかな?でも...今、正直に話さないと、いつまでもこのままな気がする。
「すみません、気になってしまって...」
「えっ?」
東野さんが話してくれないなら、まずは私の気持ちをちゃんと正直に話そう。
「朝の様子から、大貫さんと東野さんは初対面ではなさそうだったので。東野さん、大貫さんのことを奈津美って呼んでいましたし...」
東野さんの口から聞かせてほしい。
「すみません、やきもちです」
バカだな。確かに付き合っていたけど、彼女はもう過去の話だって。
お願いだから安心させてほしい...。
東野さんを見つめる。
すると、東野さんは私から視線を反らした。
えっ...?
そしてそのまま、東野さんに抱き締められる。
「悪い、ちゃんと言わないで。...彼女は大学時代の友人なんだ。...優みたいな存在」
「......そう、ですか...」
言葉がなかなか出てこなかった。
「大学卒業してから、ずっと海外に行ってて、今日は久し振りに会ったんだ。...まさか会社で会うとは思わなかったから、驚いた」
...嘘、つかれてしまった。
「悪かったな、不安にさせてしまって」
私を抱き締める腕の力が強まる。
いつもだったら、嬉しくて安心できる東野さんの腕の中なのに、今は辛くて苦しくて、そして悲しい...。