君が好き。~完璧で女嫌いなカレとの恋~
『最低』ね...。
遊びでいいからって近付いてきたのはお前の方だろ?
他の女を抱いたくらいで、この仕打ちはねぇだろ。
ポケットに手を突っ込んでみるが、当然俺のポケットの中にハンカチなんてものは入っているはずもなく。
「見てたわよ。派手にやられちゃったじゃない」
目の前に差し出されたピンクの可愛らしいハンカチ。
「奈津美...」
周囲の目など気にすることなく、俺の隣に座り、コーヒーをかけられた頭や服を拭き始めた。
「剛から聞いていた話は本当だったんだね。圭吾は女癖が悪いって」
「別に...」
藤原の奴、話しやがったな。
「つーかいいよ、拭かなくて。ハンカチ汚れるし」
手で払い除けるが、懲りずに奈津美はまた俺の頭を拭き始めた。
「圭吾はさ、人生の半分を損してるよ」
「...は?突然何言ってんだよ」
「本当のことだよ。圭吾、本気で人を好きになったことないでしょ?」
「......」
返す言葉が見つからなかった。それは本当のことで、女の身体は沢山知ってるのに『好き』って感情は全く知らなかった。
「やっぱり図星だった?」
『正解でしょ?』そう言いたそうに勝ち誇った顔をして、俺を見つめる奈津美。
「あほくさ」
素直に認めたくなくて、俺は誤魔化すように立ち上がり、水道へと向かった。
なぜか俺の後を奈津美はついてきて、水道で頭を洗う俺の近くに何も言わずにいた。
水道を止めて、髪についた水滴を絞り、いまだにいる奈津美に思わず口が開く。
「...何?奈津美は何が言いたいわけ?」
そんなに俺に認めさせたいのか?
この歳にもなって初恋もまだしてないって。
すると奈津美から意外な言葉が返ってきた。
「圭吾...私が教えてあげる」
「...何を?」
そう言うとなぜか俺との距離を縮める奈津美。
「おい、なんだ.....よ」
なんの前触れもなく、近づく奈津美の幼い顔。
...キスされた。
そう認識するのに時間が掛かるほど、驚いてしまった。
「おまっ、何して...!」
意外すぎる相手からのキスは、俺に動揺を与えるには充分すぎるものだった。