君が好き。~完璧で女嫌いなカレとの恋~
「大貫さんを連れての営業は」


「いえ、そんなことはー...。逆に勉強になりました」


「そっか!そう言ってもらえてよかったよ。...東野君には社としてもこれからも、もっと勉強してもらって活躍してもらいたいからね。期待してるよ。じゃ最後の一日も大貫さんをよろしく頼むよ」


「はい、ありがとうございます」


そうか...。
本当に今日までなんだな。


副社長室を後にし、営業部へと戻る。


奈津美は既に今日回る会社の資料に目を通していた。


「あっ、圭吾そろそろ行く?」


「だから会社で呼び捨てはやめろって言っただろ?」


「いいじゃない!私と圭吾の仲だし、...それに今日で最後なんだし」


明るくそう言いながら、俺の背中を叩く奈津美。


本当にこういうところは昔から変わってないな。


「ちょっと1つ至急送信しなくちゃいけない仕事があるから、出るのは15分後で」


パソコンを開き打ち込む。


「了解!じゃ私は失礼ないよう身なりを整えてくるわね」


奈津美が化粧室へと行く後ろ姿を、つい見つめてしまっていた。


結局最後の日まで何も言わず、か...。

ビジネス仲間になる俺とこれから仕事がやりづらくなるのが困るから、わざわざ営業に来たのか?...それしか考えられない。


「おはようございます」


菜々子に急に声を掛けられ、驚きながらもいつものように『おはよう』と返す。

昨日のメールの返信のことで俺が怒っていると思っているのか、妙にビクビクしてる菜々子に、思わず吹き出しそうになる。


別にそんなことくらいで怒ることないのに...。

いちいち可愛いことをしてくれる。


連絡事項と奈津美が今日までということを伝えた時、ちょうど奈津美が化粧室から戻ってきた。


いつの間にか藤原も会話に紛れてきて、気付けば昔みたいに無邪気に戯れ合う二人に、まるで昔に戻ったみたいな気持ちになってしまっていた。

昔もこうやって二人が戯れ合っているのを見て、ガキみたいに妬いて二人を引き離したりしたな。そんな俺を優はからかってきて...。


そんなことを思い出していると、奈津美に声を掛けられ、慌てて平然を装う。


なに考えてるんだろう。こんな思い出、今更いらないだろ?

もう過去は棄てただろ?菜々子に渡した写真と共に...。


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