君が好き。~完璧で女嫌いなカレとの恋~
「ケータイ繋がらないし、待ち合わせの場所にはいないし、どれだけ心配したと思ってんだよ」
本当に心配そうに見つめられ、傘が差し出される。
どうしてかな?
どうしていつも翔ちゃんは、私が辛い時、自然と傍にいるのかな?
...もう甘えないって決めたのに。
「...どうした?何かあったのか?」
そうやっていつも優しい言葉をくれる。
翔ちゃんのハンカチが私の頬をそっと拭いてくれて、涙はまた溢れ出す。
「ごめっ...翔ちゃん」
甘えちゃいけない。頭では分かっているのにどうしようもなかった。
溢れる気持ちを預けるように、翔ちゃんに身体をそっと預けた。
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「落ち着いたか?」
「...うん」
あれから翔ちゃんは何も言わず、雨の中ずっと傍にいてくれた。
二人してびしょ濡れのまま電車やタクシーに乗るわけにはいかず、近くのホテルに入った。
「ごめんね、先にシャワーさせてもらっちゃって。翔ちゃんも風邪引いちゃうから早く浴びてきて」
「あぁ、そうするよ」
ドアの音が閉まると同時に、溜め息が漏れる。そしてそのまま近くのソファーに腰を下ろす。
シャワーの音が聞こえてくる中、東野さんと大貫さんの会話が頭の中で繰り広げられる。
知らなかった...。
大貫さんがそんな理由で東野さんと別れたなんて。それに、10年もの間、会わずにただ夢のために頑張って...それでも気持ちは変わらないなんて...。
到底私なんかが勝てる自信ない。
半分の年月片想いしたくらいで、東野さんの全てを分かったつもりでいた。
昨日、東野さんが話してくれて全てを受け入れたつもりでいた。
だけど、私はー...。
また頭の中が一杯になり、思考回路が遮断される。
本当にもう頭の中が、ぐちゃぐちゃでどうしようもない。
「ひゃっ!?」
急に頬に触れた冷たい感触に、思わず変な声が出てしまった。
「ほら」
頬に触れたのは、冷えた缶ビール。
「あっ、ありがとう」
受け取ると、翔ちゃんはそのまま隣に座った。
「すっげぇ考え事してただろ?俺が出たのに、全く気付かなかったしな」
そう言って蓋を開けて、ビールを飲む翔ちゃん。
「...ごめん」
そんな言葉しか見つからない。