君が好き。~完璧で女嫌いなカレとの恋~
「どっ、どうしたの橘さん。そんな怖い顔しちゃって...」


あまりの形相に、思わず足が後ろに下がる。


「そんな失礼なこと言ってる場合じゃないのよ!」


そう言うと、橘さんは急に私の手を引き、歩き出す。


「えっ、ちょっと橘さんっ!?」


「こんなところじゃ話せないの!」


そう言って連れてこられたのは、人が滅多に使わない階段ホール。


「もう!こんな所まで連れて来てなに?私、そろそろ戻らないと!」


「だーかーら!そんなこと言ってる場合じゃないのよ!」


「いひゃい!」


なぜかイライラしており、思いっきり私の頬をつねる橘さん。


「もう!なんなのよ」



「よく聞きなさい。..お昼前、東野さんが副社長に呼ばれたの」


「えっ...」


それって私が外出している時?


「私も同席していて。...東野さん、今度新設されるニューヨーク支社に異動よ」


「...嘘」


「嘘じゃないわよ!...ニューヨーク支社については、副社長に人事全て一任されてると聞いたわ。...大抜擢よ。会社の今後の命運を任されたんだから。...だけど、あなたはどうするの?」


「そんな...」


嘘でしょ?ニューヨークだなんて。


「東野さんも副社長に言われた時、とても驚いていたわ。きっとそんな話、全く聞いていなかったんでしょうね。...ずっと傍で仕事をさせてもらってるけど、本当に読めない人よ。副社長って」


行っちゃうの?ニューヨークに。...行くに決まってるわよね。会社が決めた人事なら。それじゃ、私は...?


「あっ、ちょっと櫻田さん!?」


考えるより先に身体が動いていた。


橘さんの私を呼ぶ声が聞こえたけど、止まらない。


東野さんに確かめたくて仕方なかった。本当なの?ニューヨークだなんて。...出来れば橘さんの大きな嘘だって言ってほしい。


「櫻田?」

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