君が好き。~完璧で女嫌いなカレとの恋~
営業部へ向かう途中、ふいに名前を呼ばれ、足が止まる。


振り返ると、そこには東野さんの姿があった。


「悪かったな。藤原のおつかいなんて頼んで。大丈夫だったか?」


なんで...?
なんでそんな平気な顔をしていられるの?
だってついさっき副社長に言われたばかりなんでしょ?


「東野さんっ!」


ここが会社内だということも忘れて、東野さんに駆け寄り、腕を掴む。


「おい、櫻田ー...」



「どうしてそんなに普通でいられるんですか!?異動だなんてー...」


「どうしてそれをー...」


その時、遠くから人の笑い声が聞こえてきて、我に返り、慌てて東野さんから離れた。


何やってるのよ、私。ここ会社なのに...。


「すみません」


この場を離れようとした時、急に引かれる腕。


「こっち」


そう言って連れてこられたのは、近くの倉庫の中。中に誰もいないことを確認すると東野さんは、話し 始めた。


「...橘から聞いたのか?」


「はい...さっき」


「そうか...」


それ以上、東野さんは何も言わなかった。...それが証拠で、橘さんの話は真実なんだと確信するには充分だった。


「本当なんですね...」


ニューヨーク支社に異動って。



「俺もついさっき聞いたばかりなんだ。...正直、全然予想していなかったよ」


東野さん...。


「俺はこれから副社長と、今後について色々と決めたり話したりしなくてはいけなくて、呼ばれている。午後については、俺が行くはずだった外回り、藤原に頼んだから同行してもらってもいいか?」


「はい...」


「それと夜、仕事が終わったら部屋で待っててくれ。...ちゃんと話すから」


「...東野さん」



本当に本当なんだ...。

東野さんと幸せになる。そう決めたばかりなのに、なんで今なんだろう。


「菜々子...」


そっと東野さんが近付いてきて、頬に触れる大きな手。


「とっ、東野さん!ここ、会社です!」


流されそうになる自分の理性に急ブレーキをかける。


「知ってる」


しっ、知ってるって!!



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