君が好き。~完璧で女嫌いなカレとの恋~
「...都会じゃこの星達は見られなかったな」
一年過ぎて、二年過ぎて、三年過ぎて...。
私の気持ちは前へ進んでくれていないのに、月日だけは待ってくれない。
30歳になった。
昔は30歳になったらどうなってしまうんだろうって、不安で仕方なかったけど、実際なってみるとなんら変わらない。気持ちだって身体だって。歳ばかり取っちゃって中身は全然追い付いてないよ。
「ありがとうございましたー」
頼まれていた醤油を買い、スーパーを後にする。
「さむっ!」
身震いしながらも、自転車に乗り家路へと急ぐ。
いつもいつも問いかけずにはいられないよ。
『東野さん、お元気ですか?』
『東野さん、お仕事は大変ですか?』
そして、『東野さん、今幸せですか?』って...。
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「わぁ~!今日は湯豆腐だったんだね!」
そりゃお醤油が必要なわけだ!
「菜々子、飲むか?」
早速湯豆腐をお玉ですくい、食べようとした時、お父さんに差し出されたお猪口。
「うん、勿論付き合うよ!」
こっちに戻ってきてから、お互い仕事が早く終わった日は、こうしてお父さんとお酒を飲むのが日課になっていた。
「はい、お父さん」
「あぁ」
お互い注ぎ合い、乾杯をして飲む。
昔はお父さんなんて近寄りたくない存在で、いつの間にか話す機会も減っていた。上京して、たまに帰って来ても挨拶するだけ。
「...どうだ?仕事の方は」
「うん、おかげさまで順調だよ。ごめんね、お父さんを頼っちゃって」
「何言ってる。当たり前なことだ 」
そう言いながらも照れ臭そうにお酒を飲むお父さん。
三年前、急に戻ってきた私に両親は何も言わなかった。
お父さんは『取り合えず働け』って言ってくれて、知り合いの個人事務所を紹介してくれた。今はそこで経理事務の仕事をしている。
従業員は少なくて、だからこそ素敵な職場。みんないい人で毎日頑張れている。
親戚達は、会う度『まだ結婚しないの?』『紹介しようか?』って言ってくる。