2LDKの元!?カレ
「ごめん聡、すぐに片づけるから」
反射的にPCを閉じようとしたのは、西野くんと約束があったから。
そんな私の様子を見て、聡は少し驚いたような表情を浮かべる。
「どうしたんだ急に。続ければいいじゃないか」
「……でも」
いいながら俯く。
「いいんだよ。オレは、志保子が仕事をしている姿をみるのが好きなんだから」
思いがけない言葉に私は、まるではじかれたように顔を上げた。
「そんなこと初めて聞いた」
「ああ、初めていった。まあ、いろいろ思うところはあるけど。純粋に、志保子が頑張ってるからオレも頑張れる。相変わらず忙しいんだろ、仕事」
どうしてそれをいってくれるのが、聡なんだろう。
そんな聡に、今夜だけは甘えてもいいだろうか。
「……志保子、どうかした?」
「ううん、なんでもない。ありがとね」
「ああ」
それから聡は自室から読みかけの本を持って来る。そして同じ場所に座るとペリエを飲みながら静かにページをめくりはじめた。
リビングには、私のキーボードを叩く音だけが忙(せわ)しく鳴り響いている。
すぐ傍にいるのに、交わす言葉はない。
今までの私は、こんなふうに過ごす時間がイヤで仕方なかった。
聡はもう私に、興味がなくなってしまったのだと思っていたから。恋人同士でいる意味を、この沈黙の中で何度考えただろう。でも、そうじゃなかった。
この時間は、彼の優しさそのものだったのだ。